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「貧しくても助け合って 妹には大学進学させたい」高校生・井上奈美さん(16)=仮名=

2010年01月07日 [ひと]

―機関紙「NEWあしながファミリー」110号09年12月31日『なかま』から―


「高3の姉は、11月に推薦で大学に合格。でも入学金が払えず、合格を取り消されました。貧困世帯には大学の学費減額、給付制の奨学金などの支援を要望します。私たちの希望を切り捨てないでください」

12月6日。東京で行われた「遺児と母親の全国大会」で、井上奈美さんは、全国の高校生代表として作文を読んで訴えた。

奈美さんは、4歳の時に父・隆志さん(享年39)を病気で亡くした。当時、姉・里奈子さん(高3)は6歳、妹・冬美さん(中1)は、わずか1歳だった。

まだ幼い頃のある朝。目を覚ますと、いつも強くて厳しい母・佐智子さん(41)が、隣で泣いていた。母に言葉をかけられず、「お父さんがいれば…」と思いながら、眠ったフリをした。そのとき、「お父さんがいないことで、弱音や不満をいうことはやめよう」と心に誓った。

父の死から12年間、働き者の3姉妹は不平不満もいわず、力を合わせて家を守ってきた。毎日の掃除・洗濯・料理の分業も今ではお手のもの。母は現在、ヘルパーとして老人ホーム勤務のため、朝番、夜番と不定期なシフトで家にいないことが多い。休日は週1回とハードな仕事、今では腰も痛めてしまった。
3姉妹の朝は6時半に始まる。昼食用に、梅干しのおにぎりを2個ずつ握って学校へ。放課後、友だちから遊びに誘われるが、お金がないので断り、17時に帰宅する。携帯電話も持っていない。

19時頃に3人がそろい夕食になるが、冷蔵庫に食材が何もなく、白いご飯を分け合って食べる日も少なくない。宿題を終えて深夜12時、2つの布団で3人が川の字になって眠りにつく。

「公共料金の請求が来るたび、苦しそうな母の表情を見ます。だから電気はこまめに消し、お風呂もみんなで入ります。それでも水道が止まる日もありました」

奈美さんが通う公立の中高一貫校の学費は毎月2万円。クラスで自分だけが毎回納入が延滞となり、自分で事務室に支払いに行く。「毎月、家計の厳しさを実感するのはつらい」が、中学2年生から老人ホームなどで積極的にボランティア活動を行う明朗快活な少女だ。

そして大の妹想い。自分の行きたい専門学校をあきらめ、医学部を目指す妹の学費のために、アルバイトをして今から貯金しようと計画している。まだ16歳の少女が妹の未来を案じ、身をていして働こうとする。これが日本社会における貧困世帯の現実だ。

――大会当日。奈美さんは、「遺児が抱える貧困問題を少しでも解決したい」と作文に必死の想いを込めた。家族への想いや後輩のために訴える姿に、会場は大きな拍手と感動で包まれた。

「感謝の気持ちを大切にしたい」と奈美さん。現時点では経済的に進学の希望を持つのは難しい。貧しくても明るくひたむきに生きる、彼女たちの夢がついえる社会であってはいけない。

(長尾健太郎記者)


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