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心塾生インタビューこころいき#4「周りの人に恵まれ 機会にめぐまれた人生」

さくたろうさん(大学3年生 熊本県 あしなが心塾生)

 

あしなが育英会の学生寮「あしなが心塾(以下、心塾)」(東京都日野市)では、日本各地から集まったあしなが育英会の大学奨学生たちが、共同生活を営んでいる。心塾で暮らすさくたろうさんは、美術大学でテキスタイルデザイン(布・繊維・染めなどのデザイン)を専攻している。

 

※あしなが育英会の奨学金は、親を亡くした子どもたちと親に障がいがあり経済的な困難を抱える子どもたちを対象としています。

念願の美大生となって、東京へ


さくたろうさんは、小さなころから絵を描くことや、映画、音楽などが好きで、美術専門の高校へ進学した。

 

「上京しようと決めたきっかけは、高校3年生の時の三者面談で、芸術系の大学への進学を薦められたことです。東京芸術大学を卒業した担任の先生が、東京行きの背中を押してくれました」

 

高校卒業後は、兄と同じように就職するつもりだったので、受験勉強はしていなかった。しかし、小さな頃から映画が大好きなさくたろうさんにとって、多くの映画の舞台になっている東京は特別な場所だ。興味を持たないはずがなかった。「あしながの奨学生になって、東京で寮生活をするなんて、正に映画を地でいくようなシチュエーションだ」と思えて、ワクワクした。総合選抜型入試であれば挑戦できると思い、授業で制作した絵をポートフォリオにまとめた。幸運なことに、合格を勝ち取ることができ、今がある。

 

「大学生になって、初めて親元を離れました。自分の周りには大学へ行った人がいなかったので、『大学』そのものが新鮮でした」

心塾はコミュニケーションを学ぶ場

心塾は、あしなが育英会の運営だが、委員会などの自治活動は心塾生が担っている。
「ぼくにとっての心塾は、ただの生活の場ではなくて、人とコミュニケーションをするところ。集団生活ですから、窮屈で居心地が悪いと感じる人もいるかもしれません。でも、実はコミュニケーションを学ぶには、もっていこいの場所なんです。入塾してすぐ、『いつ人から見られても恥ずかしくない自分でいたい』気持ちと、『着飾らないありのままの自分を受け入れてもらいたい』気持ちが共存していることに気づきました。ここで暮らしていると、無意識のうちに『見られている自分』と『ありのままの自分』のバランスが取れるようになるので、コミュニケーション上手で話しかけやすい雰囲気を持っている心塾生が多いと感じています」

 

2026年度には心塾の最上級生になるので、自治活動にも積極的に参加するつもりだ。集団生活の良さを体感してもらいながら、どうしても生まれてしまう摩擦や軋轢を解消するのには、全員の協力と、心がけが必要だと感じている。

「良い集団生活を維持するためには、心塾生一人ひとりがアクションを起こす必要があります。上級生は意見を聞き入れる態度を忘れず、下級生も気軽に意見を上げられるような雰囲気を作っていきたいです」

 

sakutaroあしなが心塾(東京都日野市)を背に

芸術一家に生まれて

さくたろうさんの曽祖父は、熊本で美術の教師をする傍ら、油絵の画家として名を馳せた芸術家だ。母も人形作家をしている。さくたろうさんも、幼いころから芸術に触れるのが好きだった。

「小さなころから絵を描くのが好きでした。褒めてもらいたくて、いろいろな人に見せていたのを覚えています。映画も大好きで、金曜日の夜になると、家族揃ってテレビで『金曜ロードショー』を観るのが楽しみでした。祖母と5歳年上の兄も映画好きで、DVDを借りて、よく一緒に観ました。映画から学んだこと、培われた感性はあると思います。音楽も好きだから高校時代はバンドをやっていました」

 

 

reborndoll

元看護師だった母親は人形作家に転身して、リアリティにこだわったリボーンドール(Reborn doll)を作っている。赤ん坊を亡くした方や不妊の方などが、癒しのひとつとして買い求めることもある。

熊本地震と、大好きだった祖母との別れ

両親は、さくたろうさんが幼少期に離婚。母と祖母と兄の4人で暮らしていたが、母は仕事で家を空けることが多く、また、障がいのため体調を崩して入院することもあり、祖母が家事と育児の中心を担っていた。さくたろうさんが10歳の頃に母は再婚したが、さくたろうさんと兄は、祖母の家で過ごす時間も多かった。

 

2016年は、12歳のさくたろうさんにとって、運命的な1年だった。

4月には、最大震度7の熊本地震が故郷を襲った。町の様相も、日々の暮らしも、震災で大きく変わってしまった。

 

「熊本地震で、学校のイベントも、町のイベントもなくなりました。熊本城もお濠(ほり)が壊れてしまったし、大好きな映画も上映されなくなりました。災害ってこういうことか、ってあらゆる場面で身に沁みて感じたのを覚えています」

さらに、祖母の体調が衰えてきたことから、再婚した母の家庭で、義父と兄と弟と、5人での生活が日常になった。母は、まだ乳児だった弟の世話で忙しかった。そんな中、秋になって、最愛の祖母が他界した。

 

「おばあちゃんは、ぼくが小学2年生の頃にガンを患ったので、そこから4年間も生きてくれた、ってぼくは思っていて、すごく感謝しています。亡くなる直前まで元気でぼくらの面倒をみてくれましたけれど、ガンは身体中に転移していました。老人ホームが併設された病院で、緩和ケアを受けながら亡くなりました。おばあちゃんの最期の日は、皆で病院に泊まって、息を引き取るのを見守りました」

"AJEC"から始まったあしながとのつながり

そんな困難と悲しみの中、兄があしなが高校奨学生だったことから、さくたろうさんは、あしなが育英会の行事に参加できることになった。小中学生遺児を対象とした「あしながイングリッシュキャンプ(以後、AJEC*)」は、フィリピンで英語学習と異文化交流をする2週間のプログラムだった。これは12歳のさくたろうさんにとって、生涯忘れがたい体験となった。

 

「70人の子どもと一緒の海外キャンプもすごい体験でしたが、ぼくとしては、前年の12月に東京で行われた事前説明会のことが忘れられません。その時に初めて、母と2人だけで旅をしました。2人で飛行機に乗ることから特別な体験で、説明会の前後に母と一緒に東京見物をしたのもよく覚えています。大人になってわかることは、あの時期は自分も大変だったけれど、母にとっても大変な時期だったんだろうということです。被災して、実母が亡くなって、ショックが大きいときに子ども3人の面倒をみていたわけで…。体力的にもきつかったはずで、体調の波もあったと思います。東京の旅は母にとって、ぼくと向き合う時間となって、『新しい生活』に切り替える心の準備になったと思います」


AJECのキャンプも、もちろん刺激的だった。南国の景色。たどたどしい英語を使って、市場で買い物をしたこと。現地の中学校を訪問したこと。そして、フィリピンの女の子からもらった、小さな英語のラブレター。


「今年、街頭募金の会場で、同じ年にAJECに参加していた子と再会しました。あの2週間を共に過ごした仲間と大学奨学生として再会できたのは、本当に嬉しいことでした!」

 

AJEC

AJECに一緒に参加した仲間たちと。左から3人目がさくたろうさん

 

*AJEC:2016年と2017年にあしなが育英会が開催した、小中学生遺児向けの海外体験キャンプ。2016年は東日本大震災の被災家庭の小中学生が、2017年はあしなが奨学生の弟妹がフィリピンで行われたキャンプに招待され、英語レッスンや、現地の人々との交流を行った。

自分の世界観をブランドにしたい

「美術や芸術の魅力は、作品を通して人となりを知ることができることです。誰かの評価や意見を求めるための芸術というよりは、自分を知るため、相手を知るための芸術でありたいなと思います。芸術・美術の幅は広いですが、どんな分野でも、片手に収まるほど小さなスマートフォンで世界に発信できる時代ですからね」

 

将来は、自分の世界観を十分に表現できるブランドを持つことを夢見ている。そのために、これからもデザインの世界について、幅広く、時間をかけて学んでいくつもりだ。

 

「芸術も、音楽も、服も、例えばぼく自身でも、相手がどう受け取ってくれるか、どういう触れ方をしてくれるかで意味も存在意義も変わります。自分が『正しい』と思って表現することが、必ずしも受け手の共感を得るとは限りません。受け手が感情を移入する『余白』が必要で、そういう相互作用が芸術の面白いところでもあります。表現者としては、何事に対しても価値を決めつけない姿勢が必要と思っていて、その姿勢はこれからも変わらず守っていきたいと思います。一方で、芸術的表現の方法や、伝え方は時代に合わせて変わっていくものだと思うので、そこは更新し続けたいです。『変わらないために、変わっていく』がぼくの大切な価値観かなって思います」

雄弁に夢を語る中で、ロマンチックな一面ものぞかせた。

「もうひとつの夢は、結婚することかな。周りの人や家族に支えられてきたので、次は自分が大切な人を支えたいです!」

 

 

追悼作品

大学に入って半年経った頃、友人が事故で亡くなり、仲間たちと毎年、追悼展を開催している。これは2025年の作品、「連鎖反応」。亡くなった友人の人柄や、生前に見せてくれた「いつも楽しそうな様子」が、周りの人にも伝播していい影響を与えた、というメッセージを込めた。

 

 

(インタビュー 田上菜奈)

投稿者

田上 菜奈

あしなが育英会では、会長室、アフリカ事業部100年構想を経て、現在は「保護者相談室」に所属。保護者からの相談の受付や保護者向け講演会の開催などに携わる。「保護者インタビューまなざし」をはじめ、いくつかのインタビュー記事を執筆している。

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