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お父さんで お母さんで スーパーマン

保護者インタビュー 「まなざし」 第6回

ケイさん(50代 東京都)

 

 ケイさんは、39歳の時に、同期で同僚であった妻を亡くした。打成一片、仕事にまい進していたケイさんが、妻を看病し、見送り、1歳と4歳の子どもたちと3人の生活を始めて12年が経った。今では、キャラ弁をつくり、手芸もこなす、スーパーお父さんになっている。子育てと仕事の両立や、社会人としての葛藤、これからの夢などを語ってくださった。

子どもと親は別人格 悩みすぎてもよくない

 子どもたちは今年、高校2年生と中学2年生になった。

「子どもたちは、良くも悪くもマイペース。自分は人から干渉されるのが好きではないので、子どもたちにもその性格は出ていると思います。自由人です(笑)」

 長女が中学生の頃は学校に足が向かず心配したが、高校に入ってからはアルバイトも始めて何とかやっている。

「学校を飛ばして、アルバイトしながら社会から学ぶのもいいんじゃないかなと思っています。今は、昔のように高校、大学、就職で良い会社入って、定職について…という風に1本のルートではないので。自分なりのアンテナとか、どこに向かっていけばいいのかとか、判断の基準や価値観を持つことが大事だと思います」

 子どもたちは勉強があまり好きではないようだ。しかし、人とのコミュニケーションには長けている。

「自分の得意なもの、好きなものをみつけて、進路として考えてくれればいいなと思います。勉強に関しては、将来の選択肢が増えるから、やらないよりはやった方が得だな、とぼくは思うのですが…」

 そういう親の気持ちも、なかなか子どもには伝わらず。もどかしさはあるが、自由人同士、干渉されたくない気持ちも理解できる。

「子の悩みは尽きないけれど、やはり子どもとは別人格なので、悩みすぎてもよくないです。自分も、2年ほど前に、仕事と家庭のバランスが保てなくて、体調を崩し休職したことがありました。解決できないことを悩みすぎて自虐的になったり、人に対して攻撃的になったりしては、いいことは何もないな、という思いに至りました」

 体調を崩す情けない姿も見せながら、子どもも親も一歩ずつ前に進んでいる。

スポーツ万能で健康そのもの…のはずだったのに

 妻とは、会社のテニスサークルで出会った。スポーツ万能で、活発な女性だった。長男を出産して間もなく体調を崩したが、その時には既にステージ4のがんが複数ある状態だった。36歳という若さでそんな重い病気になるとは想像もしていなかった。病気は克服できるだろうという楽観的な気持ちと、万が一のことがあったらどうしようという悲観的な気持ちがないまぜになった。若いと進行も早い。疼痛もあって妻は辛そうだった。

 義母や地域のサポートを借りながら通院していたが、ある日、頼りにしていた義母が脳内出血で倒れてしまった。妻が亡くなる4カ月くらい前の出来事だった。そこから妻の病状も目に見えて悪化した。最後の3か月はケイさんも仕事を休んで看病したが、本当に大変な状況だった。

「子どもは1歳と4歳で、全てに手がかかる状態でした。でも、義父が一番大変だったと思います。義母は身体に麻痺が残り、娘であるぼくの妻は今にも命が尽きようとしていたのですから」

 そんな混乱の中、妻は1年の闘病の後、逝ってしまった。わずか37年の生涯だった。

 

ケイさん家族写真

家族そろっての一枚

男の有りようって何だろう?

「結婚してから、子どもを授かるまで6年、そして2人目の子どもが生まれるまでの3年、ぼくはほとんど家庭を顧みずに仕事に没頭していました。週末も、付き合いや趣味に費やして、家事も育児も妻任せ。自分勝手をさせてもらっていました。そのおかげもあって、仕事上ではそれなりのポジションになっていて。自分なりの将来像を想い描き、上手くやってきたつもりでした」

 仕事も遊びも存分にやった。子どもが1人のときは、決していい父親とはいえなかった。看病の1年間は、後悔の気持ちもあいまって、力の限り妻のサポートに徹した。彼女が病気になる前と後で、生活は大きく変わってしまった。そして、同時に自分の有りようも変えざるをえなかった。1歳と4歳児を前に、悩んでいる暇はなかった。

「今でこそ『育メン』なんていう言葉もあって、それなりに男が育児をすることへの理解もあるけれど、当時はまだまだ…。会社の上司に、『どうして子どもを実家の両親に預けないのか?』と言われたこともありました。両親は健在だけれども遠方で、仕事のことを考えると実家に帰る選択肢は考えられなかった。子育てを全うするために、仕事を減らさざるを得なくて、その葛藤はかなりありました。それなりの評価を受けていたし、理想と想い描いていたキャリアもありました。いいポジションにつけていたのに、脱落しちゃったなぁ…という悔しい思いはぬぐいきれませんでした」

 

若手社員のころ

若手社員のころ

 

 当時の風潮では、出張も、移動も、時間外の勤務も、接待もできないケイさんに、キャリアアップは望めなかった。幸い、仕事の面では人事の配慮で、大きく収入を失ったり、配属の変更を迫られたりすることはなかった。

 しかし、それならば!そうと決まったのであれば…と、やはり手をぬかずに突っ走しるのがケイさん流。父親としてやるべきことには、何にでも挑戦した。家事をこなすのはもちろん、地域との関りも強くなったし、保育園、学校の仕事もこなした。キャラ弁も作った。

「下の子が小学校の5、6年生になるまでの10年間は、正直、キャリアに費やすべき時間を削られてしまったと悔しい思いにかられました。でも、それを嘆いていても仕方ない。何とかポジティブに考えなくては。一般のお父さん方と比べると、子どもたちに近い距離にいますし、強い関係性も築けている。会社以外の世界で得た発見や財産も多くあります。それは大きな収穫、プラスだったんじゃないのかと思います」

 あしなが育英会との出会いも、そのひとつだ。

「ワンデイのケアプログラムに参加し始めたころ、まだ、下の子はベビーカーに乗っていました。当時は、ひとり親のためのコミュニティを見つけるのは大変でした。レインボーハウスに辿りついて、死別の辛さや大変さを共有できる仲間と出会えたのは、やはり大きかったです。お母さんたちに混じって、手芸をやってみたら、これが案外おもしろくて。それまで、ボタン付けが精いっぱいだったのに、教えてもらいながら、目新しい手芸にトライしました」

 ワンデイプログラムの中で、保護者は手芸などをしながら、気楽な形で日常の悩みなどを分かち合う。ケイさんもその輪に加わって、様々な手芸に挑戦してきた。プリザーブドフラワーや、糸巻き曼荼羅など、没頭できる趣味とも出会えた。子どもたちもレインボーハウスに行くと、気楽そうにしている。気を遣わずに、自分らしくいられる場所なのだろう。

「女性に混じって自分が手芸をしたり、キャラ弁を作ったりすると面白いと言ってもらえます。ケーブルテレビで取り上げて頂いたことも。そういうところは、逆に父親の方が得かもしれません(笑)」

妻は誰よりもぼくのことを心配していた

 毎年、妻の命日あたりに、彼女の友人が集まって偲ぶ会を開催している。その友人たちから以前言われたことがある。

「本当に心配していたのは、子どもたちよりもケイさんのことだったのよ」

 母親として幼い子どもたちのことを心配する気持ちは当然あるが、しかし、それ以上に心配していたのは夫であるケイさんのことだった。

「さすがに、あいつに任せるのは…って思っていたのかもしれないです」

 子育ての悩みを家の中で共有できる人がいない喪失感は大きく、悩みをどこに持って行っていいのか分からなかった。

「もし、映画『居酒屋ゆうれい』のように、妻が目の前に現れたら、恨み言のひとつも言いたくなりますよね。『おまえなぁ、どこ行ってるの!マジで大変だったんだから』って。でも、一応12年やってきました。ぼくが家事全般こなしているのをみたら、妻は安心するだろうけれど、めっちゃ怒るでしょうね。あの頃は何もしなかったじゃない!何なの、これ?って」

 

ケイさんと子どもたち

ケイさんと子どもたち

将来の夢は通訳ガイド!

 3年前から英語の勉強を再開した。1年半ほど前、外国人の友人に東京を案内する機会があったが、永く暮らしている地元のことでも知らないことが多いと気付いた。それが悔しくて、地理や歴史の勉強も始めた。気が付けば、『通訳ガイド』の資格をとるまでに。

「通訳ガイドは好奇心をくすぐられる資格です。今年、初チャレンジで試験に合格することができました。興味をもって日本に来てくださる外国の人に、きちんとした情報を発信したいなと思っています。今の仕事を引退したら、日本中を英語で案内して回るのが夢です」

 年をとったらやることがないとか、スーツを脱いだら着るものがないとか、そんな年寄りにはならないぞ、と心に決めている。好奇心旺盛、将来はやりたいことが沢山ある。

「ひとつのことに軸足を置いても、ガタガタと崩れてしまう可能性がある…というのは、身をもって体験しました。だからこそ、いろいろなことにチャレンジしたいという気持ちがあります。通訳ガイドの資格をとって、新しい可能性をもらったので、将来はなかなか明るいですよ(笑)」

 今、子どもたちも大きくなって、互いにあまり干渉しあわない関係になってきた。それが心地いいと感じることもある。3人3様、自由人同士、楽しくやっていきたい。

 

 

(インタビュー 田上菜奈)

 

 

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