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日本語がうまくなくても、いま出来る恩返しを。アフリカ遺児奨学生の街頭募金―モマールさん(セネガル)

セネガル出身のモマールさんは15才のときに母を亡くした。生活が厳しく、高校卒業後は進学を諦めかけていたが、あしなが育英会の留学支援制度に応募し合格。日本で念願の大学生となった。

 

勉強のほか、あしなが学生募金やアフリカ教育支援のボランティアなどにも積極的に取り組み、充実した学生生活を過ごしたモマールさんは、9月に卒業を迎える。日本での4年間をどう過ごし、どのような未来を描くようになったのか。話を聞いた。

大学最後の募金活動

2025年4月下旬。岡山駅の改札口前には、募金箱を抱え、日本語で声を張り上げるセネガルの若者がいた。あしなが育英会の「あしながアフリカ遺児高等教育支援100年構想(Ashinaga Africa Initiative: AAI)」(以下、100年構想)プログラムで、岡山大学に留学中のモマールさん(大学4年生)だ。

 

2年前に「あしなが学生募金」事務局に加入し、精力的に活動してきたが、春募金が最後の舞台となる。彼を駆り立てるのは、支えてくれる多くの人たちへの感謝だ。


「たとえ日本語が流ちょうではなくても、自分にできる限りのことをして恩返ししたい」
そんな想いを、呼びかける言葉に乗せた。

「ちっぽけな人生」 私の未来を変えた奨学金

モマールさんは母国セネガルの高校を卒業後、地元の学校での指導員補助や家庭教師をしながら、小さな仕事も掛け持ちして暮らしていた。生活が苦しく、自分と家族のためにわずかな収入を稼ぐ日々。


「自分の人生をちっぽけだと感じていました。内心では、勉強を続けて、家族だけではなく、より多くの人々の役に立てるようになりたい、という気持ちがありました。でも、現実的に考えられるような状況ではなかったので、できることをしながら、進学のチャンスを探し続けていました」

 

あしなが育英会の留学支援制度である100年構想プログラムは、高校のキャリアセンターでも紹介されていたので、耳にしたことがあった。まさか自分が、と、応募は考えていなかった。だが、合格し留学していった友人の話を聞けば聞くほど興味が深まった。

 

そこで、自分でもあしなが育英会についてあれこれ調べたところ、日本では小学生から大学生まで広く教育支援をしている団体で、奨学金を交付しているだけでなく、学生に寄り添った手厚いサポートをしていると知った。充実した大学生活を送れそうだと感じ、応募を決意した。

 

しかし、モマールさんの苦難は続いた。世界がコロナ禍に突入したのだ。面接まで終了していたが、選考自体が止まってしまった。結果がわからない状況が続き、モマールさんは辛い日々を過ごした。

 

そして2020年9月、メールの受信箱に念願の合格通知が届いた。

「ついに、大学進学への道が開けた!と思いました。とても嬉しかったです。このチャンスが得られなければ、進学せず、家族のために働くつもりでしたから。合格通知を手にしたあの瞬間、私の人生が大きく変わったんです」

 

100年構想に採用されたフランス語圏の奨学候補生たちは、セネガルでの勉強合宿を通じて、留学国と受験先を決める。モマールさんは日本を選んだ。

憧れの日本で大学生に

「日本の教育レベルの高さと文化、たとえば時間を守る文化、食べ物、アニメなどに惹かれました。日本社会は母国の発展のロールモデルになるはず、日本に行って視野を広げたい!と思ったんです」

とはいえ、日本は物理的にも言語や文化的にも、セネガルから遠い国だ。家族は手放しで応援してくれたわけではなかった。

 

「家族に、日本の大学を受験すると伝えたとき、『なぜ日本なのか?日本に行ったら、言葉を一から勉強しないといけないのに、なぜ困難な道を選ぶのか?』とショックを受けていました。でも、日本の教育レベルや文化の話をしたら、最後には応援してくれました。私の家族は、日本の場所は知りませんでしたが、日本製品はわかります。日本製のものは高級ですが高品質です。アニメも人気で、みんな知っています」

 

2021年9月、モマールさんは岡山大学に入学した。専攻はリベラルアーツと科学で、そのほか農学、化学、経済などさまざまな学部の授業を受けることができた。

 

「100年構想プログラムのおかげで、憧れていた普通の大学生活を送ることができました。そのうえ、勉強以外にも、あしなが学生募金の活動やボランティア活動、100年構想のカリキュラムでのインターンシップや、奨学生のための『つどい』など、成長できる機会が数多くありました。この4年間で、一歩踏み出して挑戦する力を身につけられたと思います」

「留学生のつどい」で、100年構想生の仲間と絆を深めた。(中央)

日本人奨学生の姿に感動。学生募金の中心メンバーに

2年前から参加している「あしなが学生募金」の活動は、モマールさんに恩送りの心を育んだ特別な体験となった。参加のきっかけは、「大学奨学生のつどい」で出会った日本人奨学生たちだ。

 

「それまでも、募金活動には毎回参加していました。でも、つどいのリーダー学生たちが、募金活動でもさまざまな役割を担い、街頭募金当日のもっと前から準備していることを知って、びっくりしました」

学生募金に関わるきっかけとなった「大学奨学生のつどい」。(後列左から2番目)


あしなが学生募金は、『誰も取り残されない未来へ』をモットーに、日本とアフリカの遺児の教育支援のために活動している。それに対して、街頭やネット上では、「なぜ寄付の半分をアフリカ支援に使うのか」という声もある。

 

「アフリカ支援について、日本人学生たちは『誰もが教育を得られるようにすべきで、この人なら良い、この人はだめと比較すべきではない。だから活動している』と言ってくれました。私はその言葉にとても感動しました。そのときの私はまだ、日本語が流ちょうではなかったのですが、私もできる限りのことをしたい!と思って事務局に入ることにしたんです」

多くの人たちの頑張りと優しさで成り立つ奨学金

多くの国には、街頭募金という文化がない。そのうえ、母国語以外の言葉を使って大声で呼びかけるのだから、留学生にとって、街頭に立ち寄付を募るのは相当な勇気が必要だ。しかし、街頭に立つモマールさんの姿は、そのような背景を微塵も感じさせず、堂々としていた。

 

「誰もが教育を受けられるために活動するという学生募金のモットーは、本当に素晴らしい目標だと思っています。事務局に入って、日本人学生たちが裏でどれほど頑張っているか、あしなが育英会の奨学金制度がどれほど多くの方のおかげで成り立っているかを、深く理解しました。私にできることは小さなことですが、それでも、できるだけの貢献がしたいんです。うまく言えませんが、駆り立てられるような気持ちで募金活動に参加していました」

 

モマールさんにとって、街頭募金は、普段会うことができない「あしながさん」(ご寄付者)と交流できる貴重な機会でもある。


「募金したあと、頑張ってねと声をかけてくださったり、親が子どもにお金を握らせて募金箱に入れてくれたり。義務ではないのに、支援してくださるんです。募金活動で、寄付者の方々がどのように支援してくださっているかを知ることが、自分が頑張るモチベーションにもなっていました」


街頭募金で、心を込めて寄付者にチラシを手渡すモマールさん(中央)

「セネガルの教育を良くしたい」

9月に卒業を控えたモマールさんは、現在、卒業論文を執筆している。化学の分野で、分子分光学について書く。将来は化学分析の研究者を目指しているが、国際機関で教育に関する仕事をしてみたいという気持ちもある。

「セネガルの若者は、大学に行くのを諦めて、小さなお店を開いて働く人が多いです。でも、高等教育を受けることで進路の選択肢が増えますし、若者が教育を受けることは、当人だけではなく、社会全体、国全体の成長にもつながると思います。セネガルの教育制度を改善したいです。交通事情が原因で高校に通えない学生もいるので、そんな環境も変えたい。やってみたいことはたくさんあります」

100年構想プログラムは、将来、社会に貢献するという学生たちの「志」を重視している。100年構想生たちは大学在学中に、ボランティア活動やアフリカでのインターンシップなどを通じて、主体的に課題解決に取り組む力を育む。


モマールさんは長期休暇を利用して、母国セネガルの地元で教育の重要性を伝える活動を行ったり、カメルーンの困難な状況にある少女たちを支援する団体でのオンラインインターンシップをしたり、教育支援分野での活動に取り組んだ。

「まずは、研究者になることを目指していますが、いつかはセネガルの教育制度を変える力になりたいです」


セネガルのCorpsAfricaでインターンをし、地域住民のニーズ調査などに取り組んだ。(右から7人目)

あしながさんがくれた今の自分

さまざまなことに積極的にチャレンジできるようになったのは、来日したおかげだとモマールさんは言う。

「新しい国で、新しい文化に触れ、異なるものの見方を知りました。生活スタイルや話し方などからも、たくさん学ぶことがありました。自分のアイデンティティを深く考える機会もありました。100年構想生や日本人学生の仲間たち、100年構想プログラムのカリキュラム、大学…。日本での生活で得たすべてのものから支えてもらったと感じています。自分自身だけでは達成できませんでした」

すべてのサポートに感謝しているが、とりわけ、あしながさんへの感謝の気持ちは、言葉にし尽くせないほど大きいと言う。


「あしながさんがいなければ、今の自分はありません。私だけでなく、約300人にも上る、100年構想生と卒業生だって同じです。母国に貢献するチャンスを得ることはできなかったでしょう。来日していなければ、私は今ごろセネガルにいて、大きな目標を抱くこともなく、平凡な生活を送っていた。そして、その状況を憂いていたはずです」

言葉ではなく、行動で最善を尽くしていく

モマールさんの挑戦を後押しするのは、あしながさんの応援に恥じない自分でいたい、という気持ちだ。


「あしながさんのおかげで、自分の可能性を広げることができました。私たちの可能性を信じて、陰で支えてくださっているあしながさんに、たとえお会いすることができなくても、いつも感謝しています。そして、感謝しているからこそ、今でも自分にできることはすべてしているし、あしながさんの期待にどうやって応えられるだろうと考え続けています」

「留学生のつどい」で志を語るモマールさん


数か月後には卒業を迎え、次のステップに向かうモマールさん。しかし、来日前のように、自分をちっぽけに思う気持ちはない。この4年間で、目に見えない支えの存在を実感し、強い意志の力を手に入れたからだ。

 

「これからも、あしながさんの期待を裏切らないよう、常に最大の努力をしたいと思っています。言葉ではなく行動で、最善を尽くす姿を示していくと決めています。これからも、どうか見守っていてください」

 

◇◇◇

 

2025年春のあしなが学生募金終了報告はこちら




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あしながアフリカ遺児高等教育支援100年構想

あしなが育英会のアフリカ遺児支援「100年構想」は、サブサハラ・アフリカ地域の遺児を対象とした留学支援制度で、社会に貢献する志をもったリーダーを育てるプログラムです。

あしながメディアでは、100年構想生たちの輝く姿を発信しています。ぜひお読みください。



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投稿者

沢田 十和子

2022年に入局し、アフリカ事業部のアドミニストレーター(管理・庶務業務)を担当。国際色豊かなアフリカ事業部の職員が、円滑に仕事ができるようにサポートしている。アフリカ人留学生の志や活躍などの情報発信も行っている。

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