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ありえへん、いい加減にしてくれへん!

保護者インタビュー 「まなざし」 第4回

トモミさん(三重県 30代)

子どもと釣り遊び中の事故

 2015年幼稚園の夏休み初日、トモミさんは体調がすぐれなかった。夫が子どもたちを外に連れ出してくれた。

「釣りをやらしてあげたいから、釣りにいくわ」

それだけ言い残して出かけたので、どこへいったのかは分からなかった。

 待てども暮らせども帰ってこない。最初に連絡があったのは幼稚園からだった。4歳の長男が自分の名前と通っていた幼稚園の名前を警察に告げたことから、園長先生が連絡をくれたのだ。

 警察によると、夫は子どもたちと堤防釣りをしていて、何らかの拍子に転落したらしい。近くにいた大人が気付いて、子どもを保護し、警察に通報してくれた。

 事故を目撃していたのは長男と2歳の長女だけだった。どのように事故が起こったのか、ぽつりぽつりと話す子どもの話が全てなので、未だ不明な部分もあるのだが、大体の様子は伺えた。落ちるまいと堤防にしがみつく夫の手を、長男が最後まで必死で押さえていたという。力尽きて少しずつ、ずり落ちていく父親の姿を、子どもたちは目の当たりにした。彼らが負った心の傷は深かった。

突然の出来事と子育てのパニック

 夫は、とてもやさしい人だった。頼りがいがあって、子どもを何より大切にしてくれた。仕事で遅くなっても、どんなに疲れていても、2人の子どもたちと遊んでくれるお父さんだった。

「実は、夫が生きているときから、私は子育てが苦手と感じていました。回りにはサポートしてくれる家族もなく、子育ての不安や戸惑いが強かったのです。体力的にも厳しいと感じていました。夫がいつもフォローしてくれて、『自分がいるから大丈夫』『助けるから、一緒に頑張ろう』と励ましてくれました」

 その夫が突然、亡くなった。子どもたちは4歳と2歳。最も手がかかる時期だ。双方の両親も親戚も皆、死別や病気、遠距離といった理由で頼ることができなかった。正に暗闇の中に突き落とされたような心境だった。

 子どもたちは事故の日以来、水を怖がり、風呂に入ることすらできなかった。何かに怯え、泣き続ける子どもたち。抱き上げても落ち着かず、途方に暮れた。どうしたらいいのか?誰に相談したらいいのか?それすらも分からなかった。

「夫が亡くなった当初は、本当に途方にくれて、生きていく気力を無くしていました。子どもは何かにつけて泣いたり、怖がったりして、耳元で大音量でギャァギャァ泣きました。私自身、育児に疲れ果てていて…。思いつめて、子どもを抱いたまま近くの山にフラフラと迷い込んでしまったときもありました。本当に、ギリギリで生きていたと思います」

 その山道で、見知らぬ老人が「お母ちゃん、大丈夫か?」と声を掛けてくれた。その声で我に返り、無事に帰ることができた。その後も、危機が来るたびに、ご近所さんや、新しい出会いに助けられて、何とかやってくることができた。

 

 友人たちはまだ若く、死別の話をできる人はいないのが現実だ。誰かと話しがしたいと、地元のグリーフサポート(死別・悲嘆支援)とつながってみたものの、参加者はほとんどが高齢者で共感しあえる友人はできなかった。そんな中、偶然、あしなが育英会の職員と出会い、あしながレインボーハウスとつながることができた。

「東京のレインボーハウスにたどり着いて、同年代のお母さん、お父さんたちとつながることができて、少しずつですけれど、笑顔の自分、本当の、素の自分を取り戻すことができました。ほんのひと時でも現実から解放されて、ここでは子どもを怒らなくていいんだ…って思えるだけでも夢のようでした。レインボーハウスは、日々の感情を忘れることができる場所です」

 ご近所さんや友人たちも、お買い物を手伝ってくれるなど、たくさん手を差し伸べてくれた。しかし、心のケアが出来たのは、レインボーハウスだけだった。あの時期、それが何よりも必要で、正に心の拠り所だった。

 

「子どもが事故のことを私に話すと、私が泣いちゃったりするので、『あまりお母ちゃんには話したくない』って言うんです。レインボーハウスに行ったときに、私が知らない話を、ファシリテーターのお兄さんたちには話しているかもしれません。子どもにとっても、心のデトックスができる場所があってよかったって、本当に思っています」

 いつも頑張り過ぎている長男が、レインボーハウスで、本来の子どもらしい顔に戻るのを見るとホッとする。

「そこではお母ちゃんを助けなくちゃ、という顔ではなくて、はっちゃけています。どれだけ甘えてもいいし、抱っこしてもらってもいい、とにかく子どもらしさを爆発させてくれる場所なので、本当に良かったなぁって思います」

 身体を使った激しい遊びにもファシリテーターは付きあってくれる。普段、できないことを体験させてもらえるのが嬉しい。大学生たちと留学について話す長男に驚いたこともある。親も子も、癒しと刺激をもらっている。

家族が団結すればなんでもできるんだ!

 コロナ禍でどこにも行けないとき、団地の庭でバーベキューをしたいと子どもたちが言い出した。普段はご近所さんやママ友がバーベキューをする時に参加させてもらうのが常だが、コロナ禍ということもあり、その時初めて「自分たちでしよう」ということになった。夫が残したバーベキューセットを初めて広げて、自分たちで火起こしからやってみた。

「初心者ですから、動画を見たりして、知恵を出し合って、一生懸命にやってみるのですけれど、上手くいかないのですよ。風も強くて、マッチではどうにも着火しないし。10歳になった長男が『チャッカマンがあれば出来るんじゃないか』と言い出して、すぐに、自転車で片道20分もかかるスーパーマーケットまで買いに行ってくれたのです。『どうしても、お母ちゃんや妹にお肉を食べさせたい』といって…。その後も、本当にテキパキと立ち働いてくれたんです」

 庭にパラソルを立てて、焼いた肉をその下に並べて、自分たちをもてなそうとする姿に胸が熱くなった。「旦那おらなんだら、火起こしなんて絶対無理やし」というのが、ママ友の間でも常識だった。自力でバーベキューすることを、どこかで最初から諦めていた。その日、3人で力を合わせてバーベキューができたことは、大きな自信になった。

「旦那いなくても、団結したらやっていける」

そう、手ごたえを感じた瞬間でもあった。

バーベキューの火起こし

「いつも、招いてくださっているご近所の人にも配る!と兄が言い出して。スーパーの試食のように、トレーに紙カップを並べて、タレを付けたお肉を乗せて、爪楊枝をさして、ご近所に配りに行ったんです。普段はガサツな子どもたちが、小さな手で丁寧に準備して、4、5件ですけれど、ご近所の方に振舞っている姿を見て、なんだかとても感動して」

 泣いてお母ちゃんを困らせていた子どもたちが、ちゃんと成長している、そう感じた出来事だった。

お母ちゃんでお父ちゃん

 ご近所まで聞こえるような大声で子どもを叱ることもある。自己嫌悪にかられていると、レインボーハウスで出会ったお父さんが言ってくれた。

「僕は、妻を亡くしてから、母性が目覚めたって自分で感じてるよ。逆に、夫を亡くしたら、きっと父性が目覚めるんだよ。男親の役割りも果たすんだもん、大きな声で叱ることがあったって、それで普通だよ」

 そういわれて、肩の力が抜けた。そういう会話を交わせる仲間が嬉しい。

「でも、子どもとどんな喧嘩をしても、一日の終わりは笑顔で終わるように心がけています。最後はひと笑いして終わるように。夫が釣りに行く前、実は体調が悪かったこともあり、ちょっとした喧嘩をして、夫はそのまま出かけて行きました。それが心残りとなって、今でもすごく辛いです。だから、どんなに子どもと険悪な雰囲気になっても、一日の終わりはふざけ合って、笑っておやすみを言うようにしています」

 

 最近になって、長男が、事故の直後に妹を守ろうと、おんぶしたことなどを話してくれた。

「今は、上手くいかないときは正直に子どもたちに話しています。そうすると、長男が『助けてあげるから頑張ろう』とか、『嫌なこと言われたら僕が聞いてあげるから、話してよ』とか、夫と同じようなことを言ってくれるのです」

 夫のような、心優しい青年に育つのだろうか…と想像してみる。長女も、下の子らしい要領の良さで、ちゃんと成長している。子どもには、たくさん夢を持って、ひとつでもふたつでも実現して欲しいと思っている。

「ぼくね、大きくなったら、キャンピングカーを買いたい。それで、お母ちゃんを絶景の旅に連れて行ってあげる」

と、最近の夢を長男が語った。

「半分は、私が買う!」

と、妹も張り切る。それがめちゃくちゃ嬉しくて、キャンピングカーが家族3人の新しい夢になった。

 

「旦那に今会えたらですか?そうですね…やっぱり感謝を伝えたいです。ここまでやってくる中で、何度も偶然の出会いに助けられ、彼の見守りだろうか?って思うことがありました」

子どもたちの優しさや思いやりに触れる度に、根底に流れる夫の柔和な気質を感じる。大変ではあったけれど、子どもという宝を残してくれたことにも、もちろん感謝している。

「でも、半分は、恨み辛みも言いたい。ありえへん、いい加減にしてくれへん!何で突然?はー、ふざけんな、とも言いたいです」

そういって、トモミさんは最高の笑顔を見せてくれた。

 

(インタビュー 田上菜奈)

 

レインボーハウス、ケアプログラムの詳細はこちらよりご覧いただけます。

 

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