『あしなが運動と玉井義臣~歴史社会学的考察~』が岩波現代文庫に!
あしなが運動とは何か?―半世紀を超える歴史を社会学的見地から考察した一冊
あしなが運動を創始し国際的な社会運動として育て上げた玉井義臣(あしなが育英会・会長)とその周辺人物に焦点を当て、あしなが運動の歴史を社会運動史・社会運動論的に位置づけて考察した単行本『あしなが運動と玉井義臣』が初出版されたのが2003年3月。
それから20年の時を経て、岩波書店から岩波現代文庫『あしなが運動と玉井義臣』(上)(下)として刊行され、書店で販売中です。
『あしなが運動と玉井義臣~歴史社会学からの考察~』
副田 義也 著(岩波現代文庫、2023年)(上) ISBN 978-4-00-603338-5 定価:1,386円
(下) ISBN 978-4-00-603339-2 定価:1,595円
解説:苅谷剛彦(社会学・現代日本社会論・オックスフォード大学教授)
〈解説より一部抜粋〉
本書は、戦後日本の社会変動というマクロな変化を、玉井義臣というひとりの社会運動家に寄り添うケーススタディとしてミクロな世界に焦点づける。そうすることで、日本の一時代を立体的に浮かび上がらせることに成功した、すぐれた「歴史社会学からの考察」だということである。
(~中略~)
本書の魅力は、社会運動の歴史社会学的考察という学問的な価値にとどまらず、こうしたフィールドワークを駆使して、玉井義臣という社会運動家の実像に迫るドキュメンタリー、ノンフィクション作品として読者を魅了するところにある、といってよいだろう。
社会学者・副田義也と玉井義臣の深い絆
著者の副田義也氏(社会学者・享年86)は福祉社会学を専門とし、現場に執着する数少ない社会学者でした。一方、玉井義臣は母親の交通事故死を機に交通評論家となり、交通遺児救済を掲げて社会運動家になりました。
縁あってふたりは同志となり、玉井は社会運動家として、『遺児作文集』を通して遺児の心の叫びをもって世に問います。副田氏は社会学者として、遺児家庭調査から遺児家庭の窮状をつまびらかにし、「あしなが運動」を支えました。
副田氏の考察の魅力は、学問的な鋭さに留まらず、遺児の心に寄り添い、励まし、強く生きていってほしいと願う気持ちが表れているところにあります。
機関紙 特別号(2023年6月20日発行)にて紹介しています
- 玉井義臣による出版当時の思い出話や、盟友 副田義也氏との約束
- 解説を担当した苅谷剛彦氏、校閲を担当した鍾家新氏の寄稿
- 著者の副田義也氏によるあとがき
変化の激しい社会だからこそ振り返りたい遺児支援の「原点」
世界が変革期を迎える今、改めてこの本が出版されることにはひとつの意味があるのかもしれません。
1960年代、時代は高度成長社会へ変化し、さまざまな制度が整わない中、自動車が普及していきました。そして1964年、玉井の母・ていさんは自動車に跳ね飛ばされ、36日後に亡くなります。この時、玉井が感じた強い憤りが「あしなが運動」の原点となりました。
そして始まった「あしなが運動」は、玉井が世に送り出した遺児作文集と副田氏の調査により、遺児の現状と社会課題の存在を社会に対して訴えていきました。遺児と遺された保護者の境遇に共感し、『あしながさん』となって遺児の未来を応援してくださった市井の皆様とともに、運動が広がりました。
今日までに「あしなが運動」によって進学を叶えた遺児の数は11万人を超えています。
遺児を支えているのは、『あしながさん』一人ひとりのやさしさです。
急激な変化が続く先の見えない時代に突入した今だからこそ、改めて「あしなが運動の原点」に立ち帰り、私たち一人ひとりが、私たちの生きる社会について考えてみることが必要ではないでしょうか。
本書はそのきっかけになる一冊だと思います。
是非、多くの方にお手にとってお読みいただけますと嬉しく思います。