「日本でもアフリカでも遺児の命や人生の価値に違いはない」―あしなが学生募金事務局長・大隅有紗さんが見たウガンダ
2024年度の「あしなが学生募金」事務局長として精力的に取り組む大隅有紗さん(慶応義塾大学4年生)は、「一人でも多くの後輩遺児の進学を支援したい」との思いで、全国での募金活動を牽引する、頼れるリーダーだ。学業と学生募金活動のほか、中高生にプログラミングを教える活動や、ベンチャー企業でのインターン、がん治療研究支援NPOでのインターンなどにも積極的に取り組んできた。23年度後期からはこども家庭庁の「こども家庭審議会」委員としても活躍している。
有紗さんは、事務局長になることが決まった23年度の終わりに、あしなが育英会のプログラム「ウガンダ短期研修」に参加した。「なぜ私たちはアフリカ遺児を支援するのだろう?」という問いを抱え、初めて訪れたアフリカで、彼女が出した答えとは何だったのか?話を聞かせていただいた。
■本記事は『アフリカ遺児支援レポート vol.7』(p.17-19)に掲載された奨学生インタビュー「日本の遺児もアフリカの遺児も命や人生の価値に違いはない」を加筆修正したものです。
あしなが奨学金で大学に進学し、あしなが学生募金の事務局長に
私は6歳の時に父をがんで亡くし、母子家庭で育ちました。母はとても強い人で、父の葬式以来、泣いているところを見たことがありません。教育熱心で、私の希望する進路を常に後押ししてくれ、中学受験もさせてくれました。おかげで私は自分の境遇がすごく辛いと感じたことはなく、母にはとても感謝しています。しかし、経済的な理由で塾に行くのを諦めたり、学校の友人たちとの間に生活感覚や家庭環境の違いを感じたりすることはありました。
高校から、あしなが育英会の奨学金を利用しはじめたのですが、あしながさんのご支援がなければ、大学進学はおろか、進級すら叶えられませんでした。その感謝の気持ちから、「私も後輩遺児のためにできることを」と思っていました。なかなかきっかけを掴めずにいましたが、大学2年生のときに勇気を出してInstagram(インスタグラム)からメッセージを送り、「あしなが学生募金事務局*」に入局しました。
学生募金のやりがいは、自分たちの活動が後輩のためになっていると実感できることと、街頭で声をかけていただいたときの喜びです。先輩たちが積み重ねてきた歴史が、今の私たちの奨学金になっていることにも重みを感じます。学生募金事務局では、大学3年生で首都圏のエリアマネージャーになり、今年度は事務局長を務めています。
全国から集まった「あしなが学生募金事務局」のメンバーたちと
遺児学生と保護者の声を届けるため、街頭活動で社会に課題を訴える
「なぜ、私たちはアフリカを支援しているのだろう?」
「アフリカのことを知る」は、事務局長になることが決まった際、私が掲げたもう一つの目標です。あしなが学生募金事務局が運営する街頭募金でいただいたご寄付のうち、半分はアフリカの遺児支援に使われています(※)。このご寄付の使いみちは、2016年に当時の学生リーダーたちが決定し、代々引き継がれてきました。
もちろん毎年話し合いをしたうえで意思決定しているのですが、私自身には「なぜ?」という気持ちがありました。そのような疑問を持ったままでは、多くのご寄付が集まる活動のリーダーを務められないと思い、事務局長になる前に、10日間のウガンダ短期研修に申し込み、「アフリカの遺児」の実生活を目にしてきました。
(左)「テラコヤ」で出会った子どもたちと
(右)一緒に研修に参加した学生募金事務局のメンバーたち
ウガンダでは、とても多くのことを学びました。ウガンダは日本とは全く違う環境でありながら、一番の学びは、「ウガンダ人も日本人も、同じ人間で、何も変わらない」ということでした。
私は、現地に行くまで「ウガンダの学生は貧困で、暗い生活を送っているのではないか」というイメージを持っていました。しかし、実際に私が出会った子どもたちは、それぞれやりたいことや夢を持っていて、日本の学生や自分自身と何も変わらなかったのです。また、ウガンダで「募金についてどう思う?」と聞いたとき、「本当に感謝している。募金活動がなかったら、今こうして勉強できる環境は無い」と言われて、学生募金の活動が世界に届いていることも実感しました。
この実体験をとおして、代々続いてきた「寄付額の2分の1をアフリカ支援に充てる」という意義が、すとんと腹落ちしました。「日本の遺児もアフリカの遺児も、命や人生の価値に違いはない。そこに差異はない」という私たちの意思表示なのだと、今は思っています。
「誰も取り残されない未来へ」という今年の募金のスローガンを決めたのも、ウガンダでの学びがきっかけです。格差が広がるなか、日本でも遺児は取り残されつつあります。アフリカの遺児も同じでした。「国境を越えて、社会から取り残されている遺児をそのままにしてはいけない」。そういう考えからこのスローガンが生まれました。
100年構想生のための「AAIのつどい」に参加。「初対面なのに仲良くしてくれて、つたない英語でも温かく受け入れてくれました」
あしながさんからいただいた恩を、後輩遺児に送っていく
あしなが学生募金事務局では、一人でも多くの後輩遺児を支援したいという思いで活動しています。現時点で、日本国内ですら、まだ十分に支援が行き届いていません。しかし、それが国外に目を向けない理由にはならないと思っています。
あしなが学生募金の活動は、元々、交通遺児支援から始まり、災害遺児、病気遺児、自死、障がいで親がじゅうぶんに働けない家庭の子どもたちへと、支援の幅が広がってきた歴史があります。「自分たち以外にも困っている遺児がいる」といって、遺児たちどうし差し伸べる手を広げてきたのです。それがなければ、私も奨学金を受けられていません。そのため、国内に視野を留めるのではなく、さらにこの支援の輪を大きくしていくことが大事だと思います。そして、どのような環境に生まれた子にも、教育の機会が平等に与えられ、やりたいことに挑戦できる社会になってほしいです。
最後に、私はあしながさんのお陰で勉強を続けることができ、自分の人生に希望を持てるようになりました。そして、そのいただいた恩を後輩に対して送れるようになっています。このような感謝の想いのサイクルがあるのは、あしながさんのお陰です。いつも温かいご支援をいただき、ありがとうございます。
(インタビュー:沢田十和子)
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24年秋のあしなが学生募金が始まります!
10月19日(土)、20(日)、26(土)、27(日)の4日間は「第108回あしなが学生募金」が全国130か所で行われます。
詳しくは次の記事をご覧ください。
>>>【24年秋の学生募金】日時・場所が決定!「あしなが学生募金」にご協力ください
(※)あしなが学生募金へのご寄付の使いみちについて
「あしなが学生募金事務局」による「あしなが学生募金」の寄付先と使途は、事務局を運営する学生たち自身が毎年決定しており、2016年以降は、ご寄付の半分を「国内遺児の奨学金」、もう半分を「アフリカ遺児の教育支援」として「一般財団法人あしなが育英会」に全額寄付すると指定しています。
あしなが育英会では、国内遺児高校生の奨学金が厳しい状況にございますが、「世界情勢も厳しいなか、同じ遺児奨学生であるアフリカの学生も支援したい」という学生たちの希望により、今年度も、国内遺児とアフリカ遺児に半分ずつ寄付することが決定されております。
あしなが学生募金を経由せずに、「あしなが育英会」に直接ご寄付いただく場合には、ご寄付者様自身でご寄付の使いみちを、ひとつでも複数でもご指定いただくことが出来ます。指定可能なご寄付の使いみちやご寄付方法につきましては、こちらをご覧ください。