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後輩たちにつながる想い~高校奨学生が街頭募金に立つ理由~

毎年、春と秋の年2回、遺児支援のための街頭活動「あしなが学生募金」が行われています。中心となって参加するのは、あしなが奨学金を受ける大学生たちです。しかし、なかには、自ら手を挙げて募金に参加してくれる高校奨学生もいます。高校生たちはどのような思いで街頭募金に参加し、何を感じたのでしょうか。参加してくれた高校生を取材しました。

つどいで出会った先輩との再会

2024年秋の街頭募金の初日の10月19日、山口県周南市の徳山駅には、大学生たちと並んで募金箱を持つ、高校奨学生の朱音さん(高1)の姿がありました。
2ヶ月前、初めて参加した高校奨学生のつどいで、緊張していた朱音さんに最初に話しかけてくれたのは、シニアリーダー(班を束ねる大学生)の香恋さん(大3)でした。同じ山口県に住み、将来の夢も同じ、「薬剤師」です。4日間を同じ班で過ごすうちに、まるで姉妹のような信頼関係が育まれました。
つどい後、香恋さんから街頭募金に参加しないかと誘われ、「また会いたい」という思いで参加を決めたそうです。


街頭募金で再会を果たした朱音さん(左)と香恋さん(2024年10月19日、徳山駅)


朱音さんがつどいで出会った香恋さんは、明るく、いつも自分たちを笑わせてくれる存在でした。しかし、街頭募金の際の香恋さんは、朱音さんの知っている彼女とは違っていました。後輩遺児、つまり、自分たちのために真剣に募金を呼びかけている姿は、ただただかっこよく、尊敬が深まりました。
勇気を出して、朱音さんも懸命に声を上げました。自分の呼びかけに応えて募金してくれる人々がいることに、「たくさんの人たちの優しさが奨学金となって、自分の元に届いていることを実感できました」と話してくれました。



つどいでの班の集合写真には、隣同士に並ぶ朱音さん(前列左から3番目)と香恋さん(同4番目)の姿があった(2024年8月、愛媛県大洲市)

 

父と突然の別れ 今、夢を追えることに感謝

岡山駅での街頭募金に立った穂乃歌さん(高1)も、夏の「高校奨学生のつどい」がきっかけで、活動への参加を決めたひとりです。穂乃歌さんは、2023年4月に、大好きだった父を病気で亡くしました。突然の別れはあまりに辛く、悲しみに暮れる日が続いたといいます。
そんななか参加したつどいで、穂乃歌さんは強く勇気づけられました。同じ境遇の仲間たちと出会い、「辛い経験をしているのは自分だけではない」と気づくことができたからです。さらに、大学生の先輩から、「あなたの人生の主役は、あなた以外の誰でもない」という言葉をもらい、前を向いて、本当に自分の叶えたい夢を目指すことを決意したと振り返ります。

 


つどい最終日に、班の仲間との別れを惜しむ穂乃歌さん(奥・2024年8月、愛媛県大洲市)


穂乃歌さんの父は、生前、家業の神社で神主を務めていました。穂乃歌さんが決意した夢とは、亡き父の跡を継ぎ、神主になること。高校卒業後は、神職の資格を取るため、大学進学を目指しています。
街頭募金で、穂乃歌さんが一番に訴えたのは「感謝の気持ち」でした。募金活動を終え、「経済的な苦しさはありますが、あしながさんや募金をしてくれる街頭の方々のおかげで、学ぶことができています。全力でありがとうを伝えたいです」と語ってくれました。
街頭募金への参加を通して再認識した、支えてくれる人たちの存在。穂乃歌さんは今、感謝の思いを胸に、夢に向かって突き進んでいます。

募金をしてくれた方に、心からの感謝を伝える穂乃歌さん(右から2番目)。右隣は、つどいで班のシニアリーダーだった陽太さん。穂乃歌さんもまた、募金でシニアリーダーと再会することができた(2024年10月27日、岡山駅)

 

支えられる側から、支える側に

穂乃歌さんが募金に参加した10月27日は、秋の街頭募金の最終日。
この日の岡山駅での活動には、来春に大学卒業を控え、最後の募金を迎える結麻さん(大4)も声を上げていました。結麻さんもかつて、「つどい」がきっかけで、岡山駅での街頭募金に参加した高校奨学生のひとりでした。



初めてのつどいで、班の仲間に自己紹介をする結麻さん(当時高3)。まだあどけなさが残る(2019年8月、愛媛県大洲市)


大学に進学し、あしなが大学奨学生となった結麻さんは、学生生活を通して精力的に「あしなが運動」に取り組んできました。昨年度は、大学を休学して、「あしなが海外留学研修制度」でフィリピンに滞在し、フィリピン政府法務省・保護観察局でのインターンを経験しました。海外研修への参加を志したきっかけは、高校3年生の時に参加した「高校奨学生のつどい」で、研修に参加した大学奨学生から話を聞いたことでした。
大学卒業を迎える今年度は、就職活動や卒業論文と並行しながら、「あしなが学生募金事務局」の中四国エリアマネージャーとして、9県、約50人のメンバーの先頭に立ち、仲間たちを励まし続けてきました。



「高校奨学生のつどい」で、フィリピンでの経験を高校生に語る結麻さん。(2024年8月、愛媛県大洲市)


結麻さんは、初めて募金に立った高校3年生の時、上手に呼びかけができず、募金をしてくれた人にお礼を言うのが精一杯だったそうです。その経験から、「いつか胸を張って呼びかけをし、きちんと感謝を伝えられるようになろう」と心に決めました。
悔しさが残った初めての街頭募金から丸5年。結麻さんの最後の呼びかけは、堂々たるものでした。

「私自身も、あしなが奨学金を受けて大学に通うことができている一人です。当時、自分の将来を考える余裕はなく、進学という選択肢はありませんでした。しかし、あしなが奨学金に出会い、あしながさんに支えていただき、今大学で学び、自分の夢を追うことができています。本当に感謝しています。そしていまこの瞬間にも、学びを諦めようとしている遺児や親に障がいがある子どもたちがいます。あの時私が救われたように、子どもたちに奨学金を届け、学びを諦めないで欲しい。私はそうした思いで、いまここに立っています。」

 

最後の街頭募金に臨む結麻さん(左・2024年10月27日、岡山駅)

 

かつて人生を諦めていた自分が、あしながさんのご支援によって挑戦を重ねられ、前を向いて歩けるようになった。人生が変わった。後輩たちの人生も、この奨学金があればきっと変えられる。
そんな結麻さんの信念が込められた呼びかけを、目を細めて聞いている男性がいました。かつて、学生募金事務局の岡山ブロックでリーダーを務め、2019年のつどいでは、結麻さんの班のシニアリーダーだったあしなが奨学生OB(27)でした。現在、岡山県内で小学校教諭として働く男性が、結麻さんの最後の街頭募金に駆けつけてくれたのです。思わぬ再会に、結麻さんの顔には笑みがこぼれました。

最後の募金を終えた結麻さんは、「たくさんの人に支えられて生きていることを実感できました。そして、いつかたくさんの人を支える側になりたいです」とこれからの決意を語ってくれました。


◇◇◇


学生募金やつどいなどのあしなが運動は、「先輩の後輩を想う気持ち」がつながり、続いてきました。その想いは、まさに運動の原動力と言えるものです。昨年10月の街頭募金でも「一人でも多くの後輩遺児に奨学金を届けるために」と全国の学生たちが奮起し、広く社会の方々の共感を得て、多くのご寄付が募金箱に集まりました。

つい数年前までは、コロナ禍で街頭募金もつどいも実施することができず、その想いのつながりが途絶えてしまうのではないかという危惧がありました。さらに、人間関係の希薄化が問題視されている時代でもあります。しかし、今回の取材で出会った「先輩」と「後輩」の姿から、あしなが運動における「先輩の後輩を想う気持ち」は色あせることなく、確かにつながり続けていることを再認識できました。この想いがこれからも、多くの子どもたちの未来を照らす光であり続けることを願います。

(取材:島田北斗)

投稿者

島田 北斗

小6で父を亡くした奨学生OB。「後輩遺児たちの人材育成に携わりたい」と2016年に新卒で入局。海外担当や関西エリア担当などを経て、2023年から2度目の神戸勤務。現在は学生寮「虹の心塾」、中四国エリア、広報を担当。学生たちと向き合う日々を送る。

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