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なんもない人おらんよね みんな大変ばい

まなざし 第7回

平ノ上朝美さん(福岡県 50代)

 

 夫を突然死で亡くした朝美さんは、3人の子を持つお母さん。看護師として働きながら、子どもたちを見守り育ててきた。頑張りすぎてしまったり、不安感に襲われたり、という自分の弱さとも向き合って、今日まで歩んできた。長男が利用している学生寮、「あしなが心塾」についても、お話を伺った。

子育ては引き算

 看護師として働いている朝美さんは、朗らかで、快活なお母さんだ。しかし、ここまでの道のりは平たんではなかった。様々な葛藤や困難や弱さを抱えながら、今日までやってきた。

「世の中理不尽だらけばい。本当にそう思いますよ」

笑い声を交えて屈託ない様子で話す朝美さんだが、その言葉には実感がこもっている。

「子どもが色々言ってくるでしょ。問題を起こすこともあるし。そういうときは『自分で処理しなさい』っていう教育スタイルなんですよ。『世の中見てみな、みんなしんどいばい?』って言ってね、ハハハ」

3人の子どもたちを育てながら思うのは、いかに手を出さずに、育てるか。目と手をはなさずに、放っておくか。その兼ね合いが大事だと考える。

「引き算の美学なんですよね。なるべく手を出さずに、上手に導くにはどうすればいいかっていう」

仕事をしながら、体調が悪い日もありながら、不安にさいなまれることもありながらの子育ての中で、見出した境地だ。

「何事も、自分で経験しないことには分からないです。わが家はのどかな場所にあるので、高校卒業したらここから出て、東京か関西で学問するように励ましています。居心地のいいところから出る経験をして欲しい。転んでみなさい、自分自身で体験せんと分からんばい、といつも言っています。だから、つい手を出したくなるところを、なるべく出さない、出さない、マイナス、マイナスっていうことで、マイナスの美学です(笑)」

御祭りの日、最高の幸せから一転

 夫は、物静かで、落ち着いた、優しく真面目な人だった。目立つ人ではなかったけれど、地区の仕事を一生懸命やってくれて、祭りも積極的に参加していた。若い衆が舞う獅子舞と、子どもたちによる獅子楽が、地元の祭りの呼び物。数年前から夫も獅子舞を担当していた。

 小学6年生の長男が獅子楽で太鼓を叩き、父親が獅子を舞うという年回りだった。「親子でやれるのは、永い歴史の中でも、なかなか無いんだよ」と地区の人が口々に言ってくれた。わが家の前で、夫が「一番獅子」を舞い、長男が太鼓を叩くのを、朝美さんはカメラに収めた。

平ノ上さんお祭りの一枚

太鼓を叩いた息子と、獅子舞を舞った夫

「カメラを回しながら、『こんな幸せ無いよね』と思ったのを鮮明に覚えています」

そのわずか1時間後に、夫が急逝するとは、そこに居る誰もが想像すらできなかったことだ。

 祭りの途中で、夫が体調不良を訴えて倒れた。看護師の朝美さんは、救急措置を行ったが、搬送先の病院で亡くなってしまった。脳の出血だった。享年43歳。突然の別れだった。

家族と地域に支えられ

 伴侶を亡くして、初めて一人で役所を訪ねた。何をどうしたらいいのか分からずに迷っていると、役所の方が手続きを教えてくれた。何もかもが初めてのことで、不安にさいなまれた。悲しみから立ち直ることも、家族を建て直すことも、容易ではなかった。車を運転していても、隣に座って道を教えてくれる人がいない。日常に起こる、小さな決断の数々も、相談できる人がいない。今までいかに夫に頼っていたか身につまされた。徐々に抑うつ状態になり、仕事の上でも判断に迷いが出てきた。

「看護師をしていると、自分で判断しなければならないことが沢山あります。主人を失ったショックから、当時は身体や心の調子を崩して、そういう判断ができなくなってしまいました」

 3人の子どもと残されたとき、一番力になってくれたのは、同居していた夫の両親だった。子を失うという、悲嘆の中にあって、両親は朝美さんと孫たちを必死で支えてくれた。ふたりに支えられて、体調は回復していった。

「両親は、取り乱すこともなく、私たちの世話を焼いてくれました。自分が生み出したものが亡くなる…という体験は、情けなかっただろうし、代われるものなら代わってあげたかったと思います。私は、自分のことで一杯一杯で、当時両親を思いやることができなかったけれど、本当に、立派だったなと思います」

 3人目の子どもが生まれて、家を建てた時に、お願いして同居してもらった。10年以上が経つが、義母はその間、1日も欠かさず料理を作ってくれている。夫の両親とも運命の出会いだったと思う。夫亡き後、さらに強い絆で結ばれている。

「亡くなった人の親は過去を無くし、子は未来を無くし、伴侶は今を無くすといいますよね、みんなが失ったものが違っていました。義母から学ぶことは、いっぱいあります。とても謙虚な人です」

 謙虚さでは、夫も負けなかった。葬儀には700人近くの人が参列してくれた。

「ご主人は、夏まつりの後で、飲み会には仕事でこれんでも、後片付けには駆けつけてくれたばい」

と、言ってくれた人もいた。夫の友人が7~8人、通夜から葬儀まで4日間付きっきりで手伝ってくれた。立派な大人が4日間仕事を休んでくれたのは、よほどのことだと感謝している。今でも、命日には毎年、夫を偲んで欠かさずお参りしてくれている。

「主人は、人の上に立つ人でも、役職に長がつく人でもなかったけれど、多くの人に慕われて、信頼されていたということが、そういうところから分かります。一生懸命生きたということですよね?ご先祖様が一人でも欠けていたら、今ここにいないかもしれないと思ったり、普通に生きていたら気付かなかったなと思ったり…。主人の死があったからこそ、気付けたことが沢山あったと思います」

 田舎には田舎のいいところもある。地域の人が一緒になって子育てをしてくれる。「我が子だけ」という意識はなく、我が子にも人の子にも、同じようにものを言う。沢山の大人の目に見守られて、子どもたちは育つことができた。

あしなが心塾レインボーハウスはパワースポット

 あしなが育英会とは夫が他界して間もなくつながった。東京で開催するつどいに、年2~3回は参加してきた。親子にとって日常を忘れ、視野を広げる貴重な場所になっている。

「あそこに行くと、ウワーッて元気が出るんですよ。私たちにとってはパワースポットです。」

長男が、地方から東京の大学へ進学しようと決めた背景には、つどいなどのプログラムで大学生たちと触れ合えたことが少なからず影響している、と朝美さんはいう。現在長男は、あしなが奨学生となって心塾に住みながら東京の大学で学んでいる。

 心塾は、学生寮の機能に加えて、様々な学びの機会を提供する「塾」の役割も担っている。英会話、読書感想文など、専属の講師が個人指導を行う。もちろん、課題も与えられ、それをこなすのは塾生の務めだ。各分野、業界で活躍するOB、OGや、著名人による講演会も定期的に開催され、塾生に出会いの機会も与えられている。

 また、外国籍の留学生も多数在塾していて、生きた英語力や国際感覚を磨ける環境でもある。あしながのプログラムを利用して、留学する塾生も少なくない。

「課題がきついとか、自由が利かないとか、息子がつぶやいたりもしますが、『きついことは人生において当たり前!』とハッキリいいます(笑)。冷暖房があって、WiFiもあって、2食ついて、月額1万円で色々と学ばせてもらえる本当に有難い場所でしょ。規律や社会性も身に着ける大事な時期なのだから、自由気ままにやるだけがいいわけではないです。心塾は大学や家庭で学ぶことができない部分をフォローしてくれている。次のステップのために、就職や大学院進学に役立つ勉強をしてくれています。近い未来ではなく、少し遠くの未来を想像して、その学びがいかに大事か分かって欲しいと思います」

 寄付をしてくださるあしながさんへ、朝美さんの感謝は絶えない。

「あしながさんには、本当に感謝しています。募金も寄付もなかなか出来ることではありませんよね。ひとりひとりのあしながさんの『時間』や『年金』を頂戴していることを忘れてはいけないと、いつも思っています」

平ノ上さん家族写真

家族そろっての記念写真

なんもない人おらんよね

 最近、友人の1人が大きな災難に巻き込まれた。朝美さんは、率先してサポートに回り、地域の人も次々と手を貸した。何も語らずに協力するご近所さんや、自分の子どもたちの姿をみて、気付かされることがあった。

「主人を亡くした時には、そのことで頭がいっぱいだったけれど、あの時もご近所さんや、友人、知人が黙って立ち働いてくれました。今回、うちの子どもたちを見ていたら、今、何をするべきかよく分かっていました。自分たちが傷ついたとき、レインボーハウスでしてもらったことを自然に自分たちでも行えた、というのが良かったです。してもらったからこそ、出来ることだと思います」

 自分も、若いころはおごりがあった。他人の芝生が青く見えて羨ましかった。しかし、夫を失ったことで人々の優しさを知り、人を敬うことを知った。

「主人には、あんた笑いよるやろうね、ありがとうねっていいます。我ながらようやってきた、私なりにやってきたやんって思えるようになりました。そう思えてから、人にかける言葉も変わってきたと感じています」

 今、生きていることが楽しい。子どもたちが育つことが楽しい。

「あなたも生き切ったように、私の人生も生き切ります!ってね、アハハ」

 支えて、支えられて。そのことを忘れずに生き切りたい。

 

(インタビュー 田上菜奈)

 

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