私は、仏壇の前に座ることが嫌い|遺児の作文紹介
親を亡くした子どもたちの気持ちに触れる
まもなく、夏休みが終わり、いつもの学校生活が再開しようとしています。
各地のレインボーハウス では夏休み中にもワンデイプログラムや、
宿泊プログラム「全国小中学生遺児のつどい」などを開催し、様々な体験にチャレンジした子どもたちは大笑いしたり泣いたりと、思い思いに過ごしていました。
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レインボーハウスに来る子どもたちにとって夏休みは「お盆」という、亡くなったお父さん、お母さんを思い出す時期でもあります。
親を亡くした子どもたちは、日々の生活のなかで、亡くなった人とどのように繋がっているのでしょうか。
2021年2月に発刊した『お空から、ちゃんと見ててね。―作文集・東日本大震災遺児たちの10年』から、子どもたちが綴った言葉をご紹介します。
パパのおはかまいり
おはかでパパのおはかにいれてはなをあげてせんこうをあげおまいりをしました。
パパはてんごくにいくためにまいにちてをあわせてがっこうにいきます。もうすぐパパはてんごくにつきます。
(2012年3月)
今後もずっと悲しみがある
私の家の仏壇には、毎朝お線香の煙が立ち昇る。それが私のつけたものだったことは一度もない。
私は、仏壇の前に座ることが嫌い。 父が死んでから一度も落ちついて座ったことがない。修学旅行の出発の日、受験当日、何かある時に母が私に言うことは決まっている。
「お父さんにお線香つけた?」
私は「つけたくないから」と答える。仏壇の前に座ると父との思い出ばっかり思い出してしまいそうでこわいのだ。大事な日に朝から悲しみたくないし、父に悲しんでいる顔を見せたくない。それにお線香をつけると父の死を受け入れているようでイヤなのだ。
今日のケアプログラム(※1)でたくさんの話を聞いた。ファシリテーター(※2)の話を聞くと今私が感じている悲しさは大学生くらいになっても消えないことが改めてわかる。私の心には、今後もずっと父の死への悲しみがある。父の発見を待った数日間や腐りかけていた遺体、思い出してしまうと涙が出る記憶ばかり。
でも、そんな記憶とは比べものにならないほどの父との楽しかったこと、大切な思い出がたくさんある。私は、悲しいことよりもそれを思い出して父の仏壇に座り笑ってお線香をつけたい。そうなるまでには時間がかかると思う。
でも、新しい制服に身を包み新しい生活に期待でいっぱいの笑顔を父にしっかり見せたい。
(2013年3月)
(※1)ケアプログラム
親との死別、それぞれの経験や亡くなった人のこと、家族や学校のこと、将来のことなどを共有する時間
(※2)ファシリテーター
プログラム中、子どもたちが気兼ねなく話したり、好きなように過ごしたりできるよう、子どもたちの側にいて手助けをする大学生や社会人のボランティア
亡くなった人とのつながり
子どもたちの「亡き人と一緒に何かをしたい」と思う気持ち、「もう一度会いたい」と思う気持ちはとても大切にしたい感情です。
これらはグリーフ(grief:喪失に伴う様々な反応)と呼ばれ、健全で自然な反応です。
グリーフは日本語で「悲嘆」と訳されることが多いのですが、実際には、子どもたちの作文にも描かれているように、亡き人を思慕することや、愛惜の感情を抱くことも含まれます。
子どもたちは自分の気持ちに丁寧に触れることで、亡き人とつながり続けます。
レインボーハウスの活動
あしなが育英会の心のケア事業では、日本各地のレインボーハウスで、親を亡くした子どもたちの気持ちや痛みを表現することを手助けするグリーフサポートプログラムを開催しています。
プログラムでは、遊びやおしゃべりを通して、自分の気持ちに丁寧にふれることを大事にしています。本記事でご紹介している作文は、子どもたちがその時々の自分の気持ちや体験を作文や手紙にしたためてくれたものです。本会では、それらを作文集として編集・発行しています。遺児の心を知り理解する一助としていただけましたら幸いです。
『お空から、ちゃんと見ててね。』
2021年2月19日出版
発行:朝日新聞出版
定価:1,210円(税込み)
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