私たち一人ひとりが未来をつくる社会の主役「奨学生のつどい」
あしなが育英会では、2025年2月14日(金)から17日(月)にかけて、「大学・専修各種学校奨学生のつどい」(以下、大専奨生のつどい)を開催しました。国も地域も、専攻も、学年も異なる学生たちが集まり「学生生活をどう過ごすか」を考え、熱い意見を交わした4日間。会場となった国立オリンピック記念青少年総合センターは、真冬の寒さを吹き飛ばす熱気に包まれました。
本記事では、各種プログラムの魅力と参加者たちのようす、社会で活躍されているゲストスピーカーの方々のお話と、参加した学生たちの感想を写真とともにご紹介します。
『Create Our Future』
~私たち一人ひとりが未来をつくる力を持つ、社会の主役!
大専奨生のつどいの対象者は、大学生、短大生、専門学校生、各種学校生、大学院生です。日本人学生だけでなく、アフリカ遺児留学生を始め、本会の制度で来日している遺児留学生26人も参加し、運営を支える学生スタッフや職員を合わせて総勢255人でのイベントとなりました。
今年のテーマは『Create Our Future(クリエイト・アワ・フューチャー)』(和訳:自分たちで未来をつくろう)。
奨学生たちには、つどいを通して自分自身と向き合うだけでなく、社会にも目を向け考える体験をしてほしい。そのようなねらいから、さまざまな社会問題を自分自身の問題としてとらえ、つどいで出会った仲間と共に、学生時代をどう過ごすのかを考え、次の一歩を踏み出すためのプログラムが作られました。
今回のつどいのリーダー(司会)を務めた大学奨学生の村上さん(大学4年生・左)と谷岡さん(大学3年生・右)が、初日の開会式でつどいのテーマを発表した
2日目
『My Value Chart』
~自分が大切にしていることを見つけよう
最初のプログラム『My Value Chart(マイ・バリュー・チャート)』は、過去のエピソードを振り返ることで、自分が大切にしていることや、自分の価値観に気づくためのワークショップです。学生たちは、「自身の過去についてワークシートに記入して班のメンバーに共有する」という作業を何度か繰り返し、自分が大切にしていることやその理由を深掘りしていきました。
年表や図を使って、自分の過去や大事にしていることを振り返り、認識を深める
基調講演『主人公で生きていく』
スピーカー:稲田大輔さん(atama plus株式会社代表取締役CEO)
『My Value Chart』で自分と向き合ったあとは、社会で活躍するゲストスピーカーを迎えて講演を聞きました。お迎えしたのは、テクノロジーで教育課題の解決に取り組んでいるatama plus株式会社*代表取締役CEOの稲田大輔さんです。
稲田さんは、ご自身が大学時代、そして社会人になってから、どのようなことを考え、どのような行動を起こしてきたか、さまざまなエピソードを交えて話してくれました。稲田さんのトークに会場は大いに沸き、学生たちは真剣に、一つひとつの言葉に耳を傾けていました。質疑応答では会場中から一斉に手が挙がりましたが、稲田さんは、すべての質問に丁寧に回答してくれました。
最後は全員に向けて、「自分で限界を決めずにやってみてください。人生がどんどん楽しくなってくると思います。応援しています」という熱いメッセージを送ってくださいました。
ご自身の体験を語る稲田さんと、真剣に聞く学生たち
*atama plus株式会社
本会事業のひとつである小・中学生遺児のためのオンライン学習支援「ラーニングサポートプログラム(LSP)」に、AI教材『atama+』を提供してくださっています。
atama plus株式会社 公式ウェブサイト
3日目
『Social Impact Competition』
~みんなで社会課題解決!プレゼン大会
3日目は、参加者全員が6~7人ずつの32チームに分かれ、社会問題の解決策を考える『Social Impact Competition』に一日がかりで挑戦しました。チームごとに、以下の4つのテーマの中から1つが割り当てられ、社会問題の本質と解決策を考え、プレゼンテーションにまとめました。
- 経済・イノベーション
- グローバル化
- 教育格差
- 環境問題
最初に、各テーマについて「問題の本質」に迫ることから取り組みました。各チームは、パソコンやスマートフォン、生成AIなどのツールを駆使して情報収集したり、模造紙を使って議論を整理したりと、それぞれの個性的な方法で議論を深めていました。
グループごとに、それぞれの考えや意見を出し合いまとめていく
また、各分野の専門家4名を招き、参加者が自由に意見交換できる時間を設けました。
- 環境問題:株式会社トロムソ 上杉正章代表取締役社長
- グローバル化:東京外国語大大学院 総合国際学研究院 岡田昭人教授
- 経済・イノベーション:ソウ・エクスペリエンス株式会社 西村琢代表取締役社長
- 教育格差:あしなが育英会会長代行 村田治
(左から)司会・村上さん、株式会社トロムソ取締役・河野直樹さん 、株式会社トロムソ代表取締役社長・上杉正章さん、本会会長代行・村田治、東京外国語大大学院総合国際学研究院/教授・岡田昭人さん、ソウ・エクスペリエンス株式会社代表取締役社長・西村琢さん、司会・谷岡さん
各分野のプロフェッショナルの方々から直接アドバイスをいただいた学生たちは、社会問題についての理解をより深めました。
チームでの議論をまとめたあとは、プレゼンテーション大会の予選と本選を開催。分野ごとに行われた予選では、プロフェッショナルの方々が審査員となり、専門的な視点で審査が行われました。各チームからは、単なる思い付きのアイディアではなく、データによる裏付けをし、社会問題の本質的な解決に向けたさまざまな提案が出されました。
予選を勝ち抜いた4チームは、施設のホールで行われる本選に進出。参加者全員を前に発表しました。本選では、参加者全員による投票により、最も良いプレゼンをしたチームが選ばれます。栄えある優勝に輝いたのは、「グローバル化」分野から、「パスポートとともに生きる」というテーマで発表したチームでした。
専門家の皆様のご所属先(50音順)
4日目
閉会式 ~それぞれの決意表明
自分たちはどのような未来を生きるか、そのためにどのような学生生活を過ごすのか。『Create Our Future』をテーマに一人ひとり真剣に考え、仲間たちと議論した3泊4日の最終日は、総括となる最後のワークショップ『アクションプラン』と、閉会式を行いました。
ワークショップでは、3日間のプログラムを振り返りながら、それぞれが「大学卒業時に実現したいこと」と「実現のための具体的なアクションプラン(行動計画)」を考えていきます。そして、自分が書いたプランの中から、「つどいを終えて日常生活に戻った後すぐに実行する目標」を決め、班の仲間たちに向けて決意を表明しました。
閉会式では参加者を代表して3人の学生が、自分の目標を全員の前で発表しました。その一部をご紹介します。
失敗を恐れずに何事にも全力で挑戦する
鈴木さん(大学2年生・宮城県)
脳に重い後遺障がいのある父を持つ鈴木さんは、幼いころから父親の日常生活のようすをみて、生活空間が人間に対して大きな影響を持っていると感じてきました。現在は、大学で建築や空間について熱心に学んでいます。
「学校の勉強中心になっていましたが、今回、つどいに参加したことは私の中で確実に良い経験になりました。同じグループの仲間たちと、バッググラウンドや夢、目標を共有したことで“誰かのために行動したい”という気持ちを再認識できました。これまで苦手だった英語を身につけたいという思いも強くなりました。これからも夢に向かって挑戦し続けていきたいと思います」と語りました。
ブラジルの若者のために第2言語習得のための学校を作る
ボテーリョさん(大学3年生・ブラジル)
ブラジル出身で、あしなが育英会の留学制度を利用して来日中のボテーリョさんは、過去の体験から、人とのつながりを持つことが難しい状況に置かれていたことを打ち明け、つどいで見つけた目標について語りました。
「私は父が殺害された時に、自分の未来を見失ってしまいました。何年もかけて自分を立て直そうとしてきました。そしてつどいに参加して、ようやく私は人とつながる機会ができたと思います。日本の若い世代である皆さんと出会い、皆さんが、困難な状況でも未来に向かって努力し続けていることに気がつきました。私も自分について振り返り、目標を決めることができました。ブラジルですでに実践している若者向け英語教育プログラムをさらに発展させて、英語などの第2言語の学校を開くことを決意しました」
当事者として、「ろう世界」の魅力を発信する
奥田さん(大学3年生・東京都)
生まれつき聴覚障がいがあり、祖父母、両親、兄弟も聴覚障がい者という家庭で育った奥田さん。「ろう者」として感じている「ろう世界」について話し、つどいを通して見つけた夢を紹介しました。
「社会に出てみると(自分にとって当たり前だった)『ろう』の世界はほとんど知られておらず、多くの人が『ろう者=障がい者』としか認識していないことに気づきました。ろう者が集まると手話が飛び交う 『視覚の言語』でつながる世界になります。
今回のつどいで、自分は何が好きなのか、何を大切にしているのかを改めて考えました。そして、私が一番好きな漫画で、登場人物全員がろう者の漫画を描いてみたいと思いました。つどいで学んだ 『自分の限界を決めずに挑戦する』という言葉を胸に、『ろう世界』の魅力を発信したいです」
■3人の決意表明全文は、こちらのページでご紹介しています。ぜひお読みください。
>>>4日間のつどいで決意した大学生「自分の限界を決めずに挑戦する」 を読む
参加者の感想
つどいを終えた参加者たちから寄せられた感想をご紹介します。
班の人たちと行動することで、今までになかった価値観が芽生え、色々と参考になることが多く、自分の人生のいい刺激となった。(大学1年生)
他の大学生のモチベーションの高さ、意欲の強さに圧倒されました。「なんとなく」で参加してしまいましたが、その人たちがいたおかげで「自分はこのままではいけない」と気づくことができた時間になりました。他の学生はさまざまなことに挑戦していて、挑戦は今しかできないと思うので、しっかりと積極的に挑戦していきたいと思います。(大学2年生)
AAI生(アフリカ遺児留学生)だけでなく、手話が必要な方もいて、色々なコミュニケーションのとり方をみんなでして、みんなで工夫し合いながら話し合うことができたので楽しかった。卒業するまでに自分がどうしていくべきなのか、どうありたいのかを考え直せたし、自分の大切にしている価値観も見つめ直すことができたので、とてもいい経験になりました。(大学3年生)
自分の人生観が変わるモノだった。いろんな地域の人たちと関わる機会があって、全国、世界に自分のコミュニティが広がっている感覚が楽しかった。(大学院1年生)
参考:2024年度「大学・専修各種学校奨学生のつどい」プログラム
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■2024年9月に行われた「高校奨学生のつどい」のレポートもぜひお読みください。