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【職員コラム】故郷の後輩遺児に想いを繋ぐ

コラム 2022.10.12

2022年10月1日(土)、長崎市で3年ぶりとなるあしなが学生募金が開催されました。本コラムは、長崎での募金の運営サポートのために出張した、本会学生事業部学生募金課の島田北斗職員が記したものです。

 

故郷、長崎へ

9月23日、長崎の街は西九州新幹線の開業に湧いていた。空には開業を祝して航空自衛隊のブルーインパルスが舞い、長崎駅には新幹線を見ようと多くの人が押し寄せたと聞く。その2日後の9月25日、私は久しぶりに故郷長崎の地を踏んだ。

 

私は高校卒業までを長崎市で過ごした。小6の夏に父親が心筋梗塞で急逝。家に余裕はなかったが、あしなが奨学金のおかげで高校と東京の大学に行くことが出来た。

受けたサポートは奨学金だけでない。高校生の時に参加したつどいでは初めての遺児の仲間との出会いに涙し、大学時代は学生寮「あしなが心塾」で暮らした。あしなが海外留学研修では、一年間インドネシアで日本語教師を経験。そして学生募金では、全国の同じ志を持った仲間たちと共に声を上げ、そこから多くを学んだ。

無力だった私は、あしながからの支えを受けて、大きく変わることができた。そしてかつての自分のように、困難な状況にある遺児たちの力になりたいと、2016年に新卒で育英会へ入局。人生をかけて遺児支援に取り組むことを決めてから6年が経つ。

 

 

今年は、2019年を最後にコロナ禍で中止していた「あしなが学生募金」が、全国で復活する。普段は関西エリアの担当をしているが、今回ばかりは担当地域にかかわらず茨城、群馬、長野、滋賀、兵庫と様々な県に飛び、久しぶりの街頭募金の運営サポートをしてきた。

そんな中耳に入ってきた、故郷長崎での遺児支援のたすきが途切れかけているという情報。長崎では、3年にわたるコロナ禍による街頭活動の休止期間の中で、学生募金事務局のメンバーが皆大学を卒業し、一時はメンバーが0人になってしまったという。今年7月に大学1年の女子学生が入ったものの、当然ながら街頭募金の経験はなく、長崎におけるあしなが運動は風前の灯とも言える危機的な状況であった。

私は居ても立っても居られなくなり、活動立て直しのための出張を志願。進学を夢見る後輩遺児たちのために、なんとしても長崎での街頭募金を復活させなければならないと、私は長崎に飛んだ。

 

報道各社の熱い応援

長崎に着いてまずおこなったのは、報道機関への取材の依頼だ。街頭募金では目の前を通る人にしか声を届けることが出来ない。多くの人に遺児の現状と奨学金の必要性を知ってもらうには、メディアへの露出が不可欠だ。そこで私は、路面電車の一日乗車券を片手に、市内の報道各社を取材のお願いに回った。

各社の記者は長崎での募金の復活を大変好意的に捉えてくださり、NHK長崎放送局NIB長崎国際テレビNBC長崎放送毎日新聞朝日新聞、長崎新聞(10/110/2)、NCC長崎文化放送(掲載・放送日順)が大きく取り上げてくれた。

 

子どもの頃から慣れ親しんだ路面電車で、市内の報道機関をはしごした

 

普段の学生募金の取材では、現役の学生がインタビューを受けることがほとんどである。しかし今回は私が長崎出身ということもあり、私が話をさせていただくことも多くあった。

一番最初に取材をしてくれたのはNIB長崎国際テレビ。なんとオンエアの中で、私の父の生前の映像を流してくださった。靴修理職人だった父は、偶然にも亡くなる4ヶ月前に同局から取材を受けていた。その映像が局内に残っており、私の経験を紹介する中で流してくれたのだ。実家に父の生前の映像は残っておらず、父の動く姿をみたのは亡くなって以来18年ぶりのこと。涙が止まらなかった。

 

NBCラジオ「チャージ」には、筆者(左)がゲスト出演。自身もあしなが奨学金を受け進学した経験談をまじえながら、街頭募金の協力を呼びかけた

 

 

NIBを皮切りに、続々と取材の申し入れをいただいた。地元紙の長崎新聞は、事前の告知記事を一面と社会面で扱い、さらに募金当日も取材に来てくれた。NBC長崎放送は夕方のラジオ番組「チャージ」に、私をゲストとして呼んでくれ、10分以上もお話をさせていただいた。朝日と毎日は非常に丁寧なインタビューをしてくださり、地域面で大きく取り上げてもらった。NHKは募金の前日準備風景を取材し、学生たちの舞台裏での奮闘を伝えてくれた。街頭募金当日はNCC長崎文化放送のカメラが入り、後日3年ぶりの募金本番の様子が報じられた。

募金当日は本当に多くの報道を見た方が寄付をしに駆けつけ、また東京の育英会本部には寄付申込みの電話が鳴り響いた。どれだけ感謝してもしきれない。

 

 

NHKからのインタビューを受けるかん奈さん

長崎の後輩遺児に想いを繋ぐ

県内唯一の学生募金事務局メンバーのかん奈さんと初めて顔を合わせたのは、去年の夏のこと。高3だった彼女が本会奨学金の予約採用に申請をし、私がオンライン面接の面接官を務めていたのだ。面接で大学生活への抱負を生き生きと語っていた彼女との久しぶりの再会に、心が踊った。

 

彼女とは募金直前の1週間を共に過ごした。大学の授業が終わると、ボランティアセンターのフリースペースに集合し、募金に向けた話し合いをしたり、一緒に報道からの取材をうけたりする日々を送った。

事務局メンバーといえども、彼女はまだ1年生で、当然ながら街頭募金の経験はゼロ。募金箱の組み立て方も知らなかった。

もちろん募金箱の組み立て方や募金当日の流れなどのテクニカルなことも教えたが、それ以上に私が時間を割いたのは、「なぜ遺児に奨学金が必要なのか」や「どんな想いで先輩たちがこの活動を繋いできたか」、「自分自身で考えたオリジナルの呼びかけをすることの意義」などを、できるだけ丁寧に伝えることである。彼女が今後の長崎での活動を率い、たすきを次の世代にに繋いでいけるようにだ。

彼女は素直に私の話を聞いてくれ、それを咀嚼し、自分自身の活動への想いを深めていってくれた。

 

 

本番の前々日、募金に立つ県内の大学奨学生への説明会で、活動の説明をするかんなさん(左)

 

街頭募金当日は、かん奈さんらに募金の運営方法を教える傍ら、私も全力で支援を呼びかけた。私自身も街頭募金によって成り立つ奨学金に救われた遺児である。街頭の方への心からの感謝を伝えるとともに、今、そしてこれから先に奨学金を必要とする遺児たちを引き続き応援して欲しいと訴えた。多くの方が呼びかけに耳を傾け、募金箱に手を伸ばしてくださった。

 

そしてかん奈さんも、自分自身の想いを堂々と街頭の人たちに訴えていた。

初めての募金では、多くの出会いと気づきがあったという。瓶いっぱいに貯めたお金を持ってきてくれた方。自らの財布を開いて寄付をしてくれた小さな子ども。事前の報道に出た自分のコメントに心動かされて、寄付をしに来たという方。たくさんの人の優しさに触れる中で、当初抱いていた不安は、今後長崎での活動を大きくしていきたいというやる気へと変化した。

「後輩遺児たちに、奨学金があるから大丈夫だよと伝えられるよう、長崎の募金は私が背負っていく」。

一度は途絶えてしまった長崎における遺児支援のたすきが、確かに繋がった瞬間であった。

 

 

初めての募金ながら一生懸命奨学金の必要性を訴えるかん奈さん(左から2番目)

 

この一日の募金で集まったご寄付は38万2447円。コロナ禍前2019年の長崎での募金の一日あたり平均額は約19万円だったので、休止前の2倍の額が集まったことになる。この結果に驚きを隠せず、また故郷の人々の優しさに涙が止まらなくなった。

集まった募金額もそうだが、今回の募金の何よりも大きな成果は、長崎における募金が復活し、学生たちによる遺児支援のたすきが繋がったことである。残念ながら今後も、この奨学金を必要とする遺児たちは絶えることがないだろう。彼らに奨学金を届けるためには、やはり街頭募金が欠かせないのだ。

今後の長崎における活動がどう繋がり、広がっていくか、本当に楽しみである。

 

 

街頭募金の片付け作業を終えた後の一枚。左端が筆者

 

長崎での募金を終えて

長崎でのすべての仕事を終えた私は、一日だけ現地休暇をいただき、亡き父に会いに行った。父が眠る墓は長崎市南部の、私や父が生まれ育った小さな町にある。

初めての故郷での街頭募金では、私自身にとっても多くの気付きがあった。報道機関からの取材を通して自分の原点を振り返えれたこと。今とこれからの長崎での活動を牽引する学生と出会い、多くを伝え、自分の仕事の意味を考え直すことが出来たこと。街頭募金で多くのご支援をいただき、改めて多くの人々の優しさによって成り立つ活動であることを再認識できたこと。

これらの気づきをもとに、全国の、世界の後輩遺児たちのために、この仕事を一層がんばろうという決意を墓前に誓ったところである。

 

亡父の墓からは、生まれ育った町が一望できる

 

 

その翌日、私は広島に降り立った。今度は広島での街頭募金のための出張だ。「あしなが」の支えを必要としている子どもたちは広島にも大勢いる。熱い想いを持った学生たちと共に、広島での3年ぶりの街頭募金に全力を尽くしてきたい。

(2022年10月7日、広島市内のビジネスホテルで)

 

 

長崎の募金の様子は、こちらの記事でも紹介しています。

 

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