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「我が家に『父の日』はなかった」―自死遺児から職員へ(前編)

コラム 2021.06.20

あしなが育英会では奨学金以外にも、レインボーハウスと呼ばれる「心のケアの拠点」で親をなくした子どもとその保護者を対象に、「グリーフサポート」のためのプログラムを開催している。「グリーフ」は喪失体験によって起こる心と身体の様々な反応を、「グリーフサポート」は自分の喪失体験と丁寧に触れ合えるようにすることをいう。グリーフサポートのプログラムでは、同じように死別体験をした人同士が交流し、自分のグリーフと触れる時間を持つ。

 

コラムシリーズ「あゆみ」では、本会の職員含めグリーフサポートに携わっている人たちに、このような活動をするようになったきっかけ、自身や人々のグリーフと触れ合うなかで感じることなどを紹介してもらう。

 

今回は、13歳で父を自死で亡くし、現在はあしなが育英会の職員としてグリーフサポートに関わっている中村優一さんに、自身の死別体験をもとに「父の日」の捉え方の変化について綴ってもらった。

 

 

 

ぼくは父の日には、なにもしません。母の日にはお母さんに花をあげたりします。父の日になにもしないのは、ぼくとしてはお母さんが悲しくなるからだと思います。(あしなが育英会作文集『父の日にお父さんはいない』より)

 

親との死別を経験した子どもたちにとって、「父の日」「母の日」という存在はとても複雑なイベントだ。

 

元々は亡き父母を偲び、想う日として始まった「父の日」「母の日」。いつしか、その起源の意味合いは薄れ、父母に日頃の感謝を伝えるイベントという色合いが強くなっている印象だ。「大切な人を想う日」という意味は変わらないものの、テレビCMやお店の装飾で見かける家族の団らん的な様子を見る度に、自らに父親が、母親がいないことを強く実感させられて、どこか寂しさを感じてしまったりする。

 

かく言う我が家も、「父の日」に対してそんな複雑な感情を抱えていた家庭のうちの一つだった。

17年前、中学校1年生で父を亡くしてから長いこと、我が家に「父の日」はなかった。

 

特別、父との死別後に家族で「父の日はやらない」と決めていたわけではない。

別に「父の日が嫌だから」と努めて避けていたというつもりもない。

気がついたら自然とやらないようになっていた。ただそれだけである。

 

しかし、やはりなんとなくではあるが、「父の死」というもの、そしてそれに関係するあらゆることについて、どこか触れちゃいけないような気がしていたのは確かだ。

 

そこには、「自殺」という父の死の「在り方」が大きく影響していたと思う。

 

0歳児の時に父と

 

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2006年の自殺対策基本法制定をきっかけに、自殺は“個人の問題”ではなく“社会の問題”という認識が社会全体に徐々に広まり始めた。本会が出版した『自殺って言えなかった。』(サンマーク出版)をはじめ、多くの人々の尽力により、日本社会において自殺問題や自死遺族に対する理解が深まることとなった。

 

「追い詰められた末の死」という視点や言葉の広まりは、多くの自死遺族が抱える後悔や自責、無力感といった呪縛を、あるいは自死遺族に対する社会の偏見を和らげた。

 

一方で私の父が亡くなったのは、その自殺対策基本法が制定される2年前。少しずつ、基本法の制定に繋がるような機運が高まりつつある一方、まだまだ「自殺」に対する社会の理解や認識は広まりかけている途中。私たち家族の暮らす片田舎の小さな町には、理解ある者は少なかった。

 

「忌まわしい死」「身勝手な死」「個人の死」

 

当時、自殺というものに対する社会の偏見がどれだけ厳しく、冷ややかものか、子どもながらそれなりに理解はしていた。幸い、私自身は誰かから面と向かって心無い言葉をかけられた記憶はない。ただ、見えないところでは自分や家族はどう思われて、どう見られているのかと気になったことは何度もある。

 

また一方で、母はどうだったのだろうか。もしかすると、子どもたちの知らない所で多くの偏見に晒されていたのかもしれない。当時、母が時折見せる疲れた表情や大きなため息から、そんなことを想像したのも1度や2度ではなかったように思う。

 

「父の死」について他言することはもちろん、話題にすら挙げてはいけない。もし話してしまったりすれば母をまた悲しませてしまう、あるいは傷つけてしまうかもしれない。

 

そうした社会の偏見や母への気遣いなどが相まって、いつしか我が家において「父」という存在まるごとが触れてはいけない“タブー”になってしまっていた。

 

コラムの後編はこちらから

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